坂野上 貴宏BLOG(K's MUSIC)

K's MUSICの坂野上 貴宏がドラムや音楽について発信していきます♪

呼吸法③

スピッツのドラマー、崎山龍男さんからいきなり睨まれてしまった僕は、緊張と居心地の悪さから変な汗が出ていた。

すると、小野瀬が僕に気がついたのか、スタジオから出てきて
「あ、坂野上さん?早く着いちゃったのね?もう少しで終わるんでちょっと待ってて下さいね!」

電話で話した時はコワイ感じの人かな?と思ってたけど、とりあえずコワイ人ではなさそうだ。

プロフィールの用紙に、自分の悩み事や、質問を色々書き込んだりしているうちに、レッスンが終わったらしく、小野瀬がスタジオから出てきて崎山さんを紹介してくれた。

崎山さん「どうも!崎山っす!今日初めてなんだって?」
自分「あっすいません。」
崎山さん「え?なにが??」
自分「さっき覗いちゃって、」
崎山さん「え?気がつかなかったけど??」

完全に睨んでたじゃん!と、心の中だけで言った、、、

崎山「君もドラムやってんの?」

あたりまえじゃん!と返したかったが、その言葉も飲みこみ「ハイ!」とだけ返した。

後に、K's Musicの講師になってからは
崎山さんと何年間も月2回ぐらいのペースでお会いすることになったので、
楽しく音楽とドラムの話をすることになるのだが、
まだこの時は崎山さんが「少し天然的な会話センスが持ち味の人?」だとは知るわけもないので
少し戸惑いながらドラムの話をしたのを覚えている。

緊張も少し和らぎ、いよいよレッスンのスタートである。

当時、超一流といわれていたドラマー達のビデオを流しながら、
彼らのグリップや姿勢の解説から始まった。

その頃、普通に流通していた奏法とは、あまりにかけ離れている解説ばかりで、
「え!?本当に!?」と思うのだが、映像を見ると確かにその通りだ、、、。

そんな繰り返しが続き過ぎて、すぐに脳みそはオーバーヒート寸前。
呼吸法を知りたくて来たのに、それ以外も改善しなきゃいけないところばかりみたいだ、、、

解説で使っていた映像の中には見た事のある映像もあり、
色んなことに気づけてなかった観察力の無さを情けなく思うばかりだ。

途中、「何でこんな事に気づけるんですか?」
と、小野瀬に聞くと
「自分は、ドラムと古武術の人体力学を同時に始めたから、人間の体バランスには敏感なんですよ。」と言う。

「人体力学!?」

すると、腕の重さや、波をかけたり等、身体を使って体験させてくれた。

「これが人体力学ってやつか、、、」

当時の僕は腕力にはそれなりに自信があり、腕力では人に負けたことがないぐらいだったが、
単純な力比べでさえ小野瀬には全く勝てない、、、。

小野瀬は「パワーもスピードも筋力や筋肉なんて使わないんですよ。」と言うが、
その時の僕は、人の身体の仕組みさえ知るわけもなく、本当にパニックになった。

しかし、それと同時に身体の使い方の奥深さを感じ、これをマスターすれば、自分が目指すドラミングが出来るようになるかもしれない!
と、希望を持ち始めたのを覚えている。

そしていよいよ呼吸法の内容に入っていった。

まずは、管楽器奏者の呼吸を擬似体験するために、トランペットのマウスピースを使うと言う。

吹き方を教えてもらって
ようやく音が出せるようになると、
色んな管楽器奏者のソロに合わせ、その管楽器奏者がブレスするタイミング以外は
管楽器奏者と同じように息をマウスピースで吹き続けるという体験をした。

トランペットのマウスピースは、小学校で習ったリコーダーの何倍も息を出さないと鳴らせない。

「く、苦しい、、息が続かない、、」

当たり前だが、管楽器は自分の好き勝手なタイミングで息なんて吸えない、、、
管楽器は、ずっと息を吐き続けているのに、ブレスはほんの一瞬。
そんな事も気づかずにホーンセクションのバンドで演奏してた自分がなんだか恥ずかしくなってきた。

「ドラムの練習だけしてても絶対に気づけない、、、」とも思った。

そしてその後に、スティーヴガッドが実際ドラムソロでどういう呼吸をしているかを
ビデオを観ながら解説してくれた。

確かにさっきの管楽器奏者のように、ずっと息を吐き続けながら激しいドラムソロを叩いていることが確認出来る。

「スティーヴガッドのこの迫力や歌心は、呼吸法を知らないと絶対到達できない、、、」

単純なフレーズでもスティーヴガッドがやると、全然説得力が違って聴こえる理由が分かってくると同時に
命がけのような集中力で演奏していた当時のポンタさんのドラミングが目に焼き付いていたので、
ポンタさんが言う「呼吸法で歌うのよ!」という意味の片鱗がようやく見え始めてきた。

そしてビデオを使った理論の説明が終わり、いよいよスタジオでドラムセットを使ったレッスンが始まる。
(実際はスティッキングやフォーム、タッチなどのレッスンもありましたが、今回は呼吸法だけに絞ってお話しします。)

事前のビデオを使った解説で、
ガッドは「絶叫系」の息の吐き方!
カリウタは「鼻をかむ系」の息の吐き方!
ポンタさんは「エヘン虫系」の息の吐き方!
と、大まかに説明を受けていたが、
とりあえずスティーヴガッドの「絶叫系の呼吸法」で演奏をしてくれると言う。

まずは実際に僕もガッドと同じ絶叫系の声を出してみる事になった。
小野瀬の指導の元、身体の状態を変えて叫ぶと低くて太い叫び声が出た。
「ガッドもこんな声で唸っている!」

横隔膜や骨盤底が使えないと甲高い叫び声になったり、声が小さくなったりして
ガッドのように低くて、ドラムソロの爆音の中でも聞こえてくる大きな声なんて絶対に出せない、、、

「ガッドがこの低くて大きな叫び声を出しながらドラムを叩いているという事は、呼吸法で叩いてるって分かってきた?」

と、小野瀬。

そしてやっと小野瀬の実演が始まった。

まずは簡単なエイトビートからだったが、聴いたこともない音圧とダイナミクスで、僕は言葉を失ってしまった。

次にドラムソロ。

「ヤバイ!!」

僕だけじゃないと思うけど、人は普通にうまいな~と思うと拍手したり笑顔になったりするが、
凄すぎると「危ないもの」や「ヤバイもの」を見たような感覚に陥ると思う。

そういう「ヤバさ」は、生でハービーメイソンの演奏を聴いた時以来だった。

絶対!これをマスターしたい!!

小野瀬はその実演とは裏腹に、どこか子供のようなイタズラっ子みたいなところがあり、
下ネタを絡めて話すことが多いと言う印象だった。
(こういうところは、今でも全く変わってないので、未だに困ってるのだが、、、)

 


そして、入校してから数回目のレッスンで呼吸法を教えてもらい、
日々スタジオだけではなく、家に帰っても曲に合わせて呼吸法の練習に明け暮れるようになった。

僕は「何か」を覚える時、理屈じゃなく、「感覚」や「体験」が一番入ってくるので、
レッスン中に小野瀬から「今の!!」
と言われた時の感覚をひたすら毎日繰り返して練習する日々を続けていたので、ときには横隔膜と骨盤底を動かしすぎてしまい、食べたものを吐いてしまうことも何度かあった。

僕が21歳の頃の、懐かしく良き思い出である。

呼吸法で叩くドラミングは、ポンタさんが言う通り「常に意識して歌う事が大事」で、
どんなに呼吸法をやりこんだ時期があったとしても、
気を緩めてしまった期間が続くと、いつの間にか小手先のドラミングに戻ってしまう。

先日も、小野瀬のギターの趣味に付き合ってセッションに行った時、
「坂P〜(小野瀬は僕の事を坂Pと呼ぶ)、いつの間にか呼吸が薄くなってるよ〜!」
と、すぐ見抜かれてしまった。

「これを生徒さんに教えなきゃなんだからね!」

ぐうの音も出ない。

そんな時は21歳の頃の新鮮な気持ちを思い出して、呼吸や腹圧を意識して、繰り返し繰り返し歌う練習をしている。

ちなみに、僕の呼吸法のタイプは基本的にカリウタの「鼻かみ系」と、
ポンタさんの「エヘン虫系」の中間で、
それは家の中で呼吸法の練習をする際に、ガッドの「絶叫系」を練習してしまうと、
アパートを追い出されかねないから、そうなったのかもしれない(笑)

尊敬するポンタさんの名言で
「音楽家は、自分でウン!と納得出来るまでやるしかないのよ。でもいつになっても納得なんかできないんだなコレが、、、納得出来たらドラムやめるな、、、そうやって一生追い求めて終わるわけよ。崇高だろ!?」
と言う言葉がある。

そのポンタさんの言葉に勇気をもらいつつ、
レベルの低いところなんかで満足なんかしないで、ポンタさんみたいに音楽家として高い理想を追い続けて一生を過ごせたら幸せなんだろうと信じている。


拙い長文の日記を最後まで呼んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

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